絵柄が消えると、市場も消える。

― 製品の表面にこそ、新しい市場を生み出す力がある ―

2026年、カルビーのポテトチップスから、見慣れた色やデザインが一時的に消えました。

印刷原材料の供給不足に対応するため、主要商品のパッケージを白黒に変更したのです。

商品の中身は変わっていません。

味も、品質も、基本的には同じです。

しかし、消費者の購買行動には、興味深い変化が見られました。

2026年11月6日付の日経クロストレンドは、約9万人の購買データを分析した結果、カルビーの商品から離れた購入者の86.8%が、競合商品へ乗り換えるのではなく、調査対象においてポテトチップスというカテゴリー自体を購入しなくなっていたと報じました。

同時期には価格改定も行われており、すべてがパッケージ変更による影響とは断定できません。

それでも、この結果は私たちに大きな問いを投げかけています。

失われたのは、商品の色だったのか。それとも、商品を買いたいと思う理由だったのか。

デザインは、本当に「付加価値」なのか。

一般的に、印刷やデザインは製品に付加価値を与えるものだと考えられています。

まず製品の機能や品質があり、そこに色や絵柄を加えることで、商品価値を高める。

私たちも、そうした考え方を当然のように受け入れてきたのかもしれません。

しかし、今回の事例を見ていると、少し違う考えが浮かんできます。

もし、デザインを取り除くことで、商品を購入するという行動そのものが失われるのだとすれば。

デザインは、後から付け加える価値ではなく、最初から製品の価値を構成していたのではないでしょうか。

人間もまた、内面だけで存在しているわけではありません。

表情、肌の質感、姿かたち。

その人らしさは、外側にも現れています。

人の魂が、表情や皮膚を通して感じられるように、製品の個性や魅力も、その表面に宿るのではないでしょうか。

製品の表面は、単なる外側ではありません。

そこは、製品が人と出会う場所なのです。

絵柄をなくして需要が失われるのなら、絵柄をつけることで需要を生み出せるのではないか。

私たちが今回の事例から最も強く感じたのは、この可能性です。

世の中には、絵柄がなくても問題ないと考えられている製品が、数多く存在します。

  • 無地の筆記具。
  • 何の装飾もないプラスチック製品。
  • 機能だけを求められてきた工業製品。

これらは、本当に無地である必要があるのでしょうか。

もちろん、装飾を必要としない製品もあります。

しかし、これまで機能だけで選ばれてきた製品に、色や絵柄、デザインを与えたらどうなるでしょう。

ただの筆記具が、持つことに喜びを感じる一本になる。

何の変哲もないプラスチック製品が、思わず手に取りたくなる商品になる。

ありふれた日用品が、誰かに贈りたくなる特別な一品になる。

これまで価格と機能だけで比較されていた製品に、まったく別の選ばれる理由が生まれるかもしれません。

それは、既存の商品を少し高く売るための工夫にとどまりません。

今までその製品を必要としていなかった人が、欲しいと思うようになる。

そこに、新しい需要が生まれます。

そして、その需要の積み重ねが、新しい市場をつくっていくのだと考えています。

私たちは、製品に絵柄を与える仕事をしています。

ヒル・プリントは、熱転写箔を設計・製造する会社です。

筆記具や化粧品容器、日用品、工業製品など、さまざまな製品の表面に、色や文字、絵柄を表現するための技術を提供しています。

これまで私たちは、美しい発色、安定した転写性、素材への適合性など、技術と品質の向上に取り組んできました。

もちろん、それらはこれからも変わらず大切です。

しかし、私たちの仕事の本当の意義は、その先にあるのではないでしょうか。

製品に色を与える。

絵柄を与える。

個性を与える。

それによって、それまで誰にも注目されなかった製品が、人の心を動かす商品になる。

私たちは、製品の表面を通して、新しい価値と市場を生み出す仕事をしている。

そう考えると、熱転写箔という技術には、まだまだ大きな可能性があります。

絵柄をつけましょう。

今まで、絵柄が必要ないと思っていた製品にこそ、デザインの可能性が眠っているかもしれません。

製品の機能を変えなくても、素材そのものを変えなくても、表面が変われば、人との関係が変わることがあります。

そして、人との関係が変われば、市場も変わる可能性があります。

絵柄は、単なる付加価値ではありません。

製品の本来の価値を形づくり、ときには新しい需要を生み出す力です。

まだ絵柄のない製品に、新しい可能性を。

私たちヒル・プリントは、熱転写箔という技術を通して、その可能性を広げていきたいと考えています。

絵柄をつけましょう。

そこから、新しい市場が生まれるかもしれません。


参考:日経クロストレンド(2026年11月6日)「カルビー白黒化で87%が『ポテチ』離れ 高齢層ほど顕著な影響」